フルートのパウル・マイゼン先生が亡くなられて間もなく2ヶ月になる。既に昨年春に奥様から闘病中と伺っていた。最後にお会いしたのは15年前の神戸。あの後ドイツで一緒にビールを飲むことはとうとう叶わなかった。
演奏活動を引退されてから日本に指導に来られたので、私にとっては「先生」だが、20世紀を代表するフルートの巨匠だった。
その頃盛んにフルートの学生と一緒に弾いていたのでマイゼン先生のレッスンについて行ったら楽しくて楽しくて!バッハやモーツァルトなど超有名曲のあらゆる視点からの時には呆れるほど大胆な分析も楽しければレッスンをされる先生ご自身もとても楽しそう。幸子夫人の明快な通訳も楽しくて、あまりに完璧な通訳ぶりに彼女もかなりフルートが吹けるのでは?と思う程だった。
常に朗らかで楽しい方だった。レッスン中の名台詞は数え切れない。
マイゼン「この楽器を作ったのはSさん?それとも他の人?」
学生K「あ…Sさんです。」
マイゼン「ふ〜ん……いっつも女の子の楽器ばっかり作って。」
長野五輪直後にリサイタルを控えたIさんにくっついて五輪真っ最中にご自宅へ。レッスン室の隣室でつけっぱなしになっているテレビが騒がしくなった。
マイゼン「チョット待ッテ(日本語)
…と隣室に消えた先生は数秒後に、「日本人じゃなかった。」とお戻りになった。
その後Iさんの吹き始めたヒンデミットのソナタの最終楽章の速度が気に入らなかったようで…
マイゼン「ダメだダメだ!もっと攻めて攻めて攻めまくって自分の限界に挑戦するんだ!そうでなければ金メダルは獲れない!!」
レッスン以外にも楽しい事がいっぱい有った。あまりに入り浸った為に門下生達とのクリスマスパーティーにも呼んでいただいた。
そこでマイゼン先生の心理テストの結果を読み上げると…
私「彼女は温かい人です。」
奥様「きゃ〜嬉し〜ありがと〜(抱きついてキス)!
マイゼン「君のことなの?」
奥様「他に誰がいるのよ!!」
まだまだたくさん有ります。
折角ドイツにいたのに、もっと積極的にミュンヘンまで押しかけていろんなお話を伺いたかったと後悔しています。
訃報が届いてから学生とバッハのソナタを弾いては涙。モーツァルトの協奏曲を弾いては涙。ベームのグランドポロネーズでもサンカンのソナチネでも涙。想い出の曲がいっぱい有ります。
マイゼン先生に会わなければ、私は今ほど音楽を好きになっていなかったでしょう。
これからもずっと、私の最も尊敬する音楽家の1人です。
安らかに…。