笑う伴奏生活

ハンブルクから愉快な共演者達を御紹介します。

ジャムおじさん先生追悼

 5月2日、ジャムおじさん先生(チェロ)追悼演奏会。
 凡そ1ヶ月前にヴァイオリンのH先生(仮名)から、
ジャムおじさん先生の奥様も来られるから貴方が出てくれたら喜ばれるわ!」
と出演を打診されて即座に出ます!と言ったものの以後2週間ナシの礫。ホントに有るのか疑わしくなって来た頃にシングルマザーA(改名)から、
「私と一緒にマルティヌーソナタを弾いてくれない?」
と連絡が来た。
 やったことない。難しい。でも弾きたい。急いで楽譜を借りて、いやそれどころか買って練習し始めたら数日後、
「曲目が変わったの。H先生と3人でドヴォルザークを弾かない?」
……。
 やったことない。難しい。あんまり弾きたくない。3人揃って練習出来るのはたった1日という。10日しかないのに出来る自信ないと言うと、
「楽章ひとつだけよ?1回の練習で何とかなるわよ。」
とのお返事が。私としてはジャムおじさん先生の追悼演奏会だし出来るだけ良い演奏を聴いてもらいたいのだが彼女みたいなのが本当のプロなんだろうか…。


 いざそのたった1度の練習。部屋に入るなりH先生昨日朝から晩までレッスンしちゃって練習出来てないの、お手柔らかに、といきなり言い訳。でも2時間足らずの練習で全体の雰囲気はこうしましょう、ここの場面転換はこうしましょうとまとまりが出て来て後は当日ゲネプロで宜しく!ということになった。


 数日後H先生コロナウィルスに陽性反応が出て出演を辞退(涙)。
 代わりにお分かりですかお分かりですか先生が弾くことに。合わせは演奏会前日の夜のみ…。
 いざその前日の練習。お分かりですかお分かりですか先生はH先生よりずっとずーっと速く弾き始め、シングルマザーがもう少しゆっくりにしませんかと申し出たらこうやってこうやったらこれこれこういう訳でこの速さが相応しいに違いなくてそれ以外には考えられないと語り始めて貴重な練習時間がどんどん過ぎて行くのを瞬時に察知したシングルマザーは一切の抵抗を辞め、全てお分かりですかお分かりですか先生の意のままに弾くことに決めた。H先生との合わせはぜーんぶ水泡に帰した…。


 さて当日は幾つかの懐しい顔も見られたものの発案そのものが遅かったのか当然いるべき多くの人が欠けていた。それにしてもどうして嘗ての教え子はほんの少しで同僚の先生達がいっぱい弾くんだろう…。
 ドヴォルザークは奥様も見えたことだし集中しなきゃ!と思って弾いたが、何故かジャムおじさん先生の本人大真面目なのに愉快な言動の数々が思い出されてニヤニヤしながら弾いた気がします。追悼演奏会なのに!とお客様には不謹慎に映ったかも知れません…。


 終演後、ジャムおじさん先生に連れられてマズいレストランに行った打ち上げがもう無いのは残念なようなそうでないような…まぁそのレストラン自体がもう無いけどね。