笑う伴奏生活

ハンブルクから愉快な共演者達を御紹介します。

東京五輪で最も印象的だった場面

 オリンピックが終わって1ヶ月以上経ちました。今更ながら特に印象に残った場面を振り返ってみようと思います。

 

 くどいようですが体操競技ファン歴37年です。採点競技の良い面も悪い面も37年間見続けています。
 良くフィギュアスケートで演技後氷上で大喜びする選手が見られますが、それが心からの表現かどうかはなんとなく分かる場合があります。前の年の世界選手権でダブルアクセルの失敗が悔しくてキス&クライで涙を流した選手が翌年同じ失敗をしたのに曲が終わると同時に大口を開けて天を仰ぎながら両手を叩いた時は彼女の気持ちが分かりませんでした。そしてその選手はその更に翌年のオリンピックで今度こそ会心の演技をするや跪いて氷にキスしたりガッツポーズをする時にわざわざ顔だけ観客席に向けたりと大変な喜びよう。そして得点が表示されると顔は先程キスした氷のように青くなり、採点に不正が有ったと猛抗議。なんと結局採点は覆り金メダルを獲得したのです。当時男子シングルで同国代表だった嘗ての世界王者は、「彼らは良き敗者になるべきだった。」とコメントしました。
 柔道やレスリングも以前同点のまま試合が終了し勝敗が審判に委ねられていた頃には終了と同時に両手を広げてガッツポーズを見せる選手が大勢いました。それを見る度に判定が気が気でなくガッツポーズどころではないのが自然ではないのだろうかと思っていました。
 遂には誰が何と言おうとタイムで順位が決まる陸上競技で、写真判定にもつれ込むような際どいレースの直後に或る選手が判定を待たずに国旗を纏ってウイニングランを始め、判定の結果別の選手の優勝が決まったのを見た時にはあのウイニングランには何の意味が有ったのだろうかと思ってしまいました。


 東京五輪体操競技男子団体は(ドイツは有力選手の引退で期待度が低くあまり放映されませんでしたが)激しいメダル争いが展開されたようですね。4種目を終えた地点ではロシア選手団が大きくリードしていましたが5種目めの鉄棒の得点が伸びず7点有った貯金を殆ど使い果たしてしまいました。これによって日本・中国との優勝争いが俄然緊迫して来ました。
 中国と日本の最終種目は鉄棒。日本の最終演技者である橋本選手は会心の演技で高得点を得て中国を逆転し、銀メダル以上が確定します。後はロシアの床運動の結果を待つだけです。
 そのロシアは先に演技をした2人にラインオーバーのミスが出ました。合わせて0・6の減点です。最終演技者の現世界王者ナゴルニー選手に大きなプレッシャーがかかります。1996年のアトランタ五輪を最後にロシアは団体優勝から遠ざかっています。
 ナゴルニー選手は今年発表した自分の名前が冠せられた大技を避けてやや確実に団体優勝を目指します。それでも十分に高難度なのです。
 特大プレッシャーの中彼は見事な演技を見せました。でも完璧ではありませんでした。もう点数を計算出来るレベルを越えた僅差です。
 先のフィギュアスケート選手ならば床にキスしたり観客にスタンディングオベーションを煽ったりしたかも知れませんが、ナゴルニー選手は祈るような表情で両手を合わせたまま演技台を降りました。得点が表示されるまでの間ずっと両手を胸の前で組んで仲間達と心配そうに電光掲示板を見つめていました。
 やっと表示された点数はロシアチームの25年ぶりの金メダルを示しました。4人の選手達は揃って雄叫びを上げ、床に崩れ落ちて声を上げて泣きました。アキレス腱断裂から半年以内で驚異の復活を果たした前世界王者のダラロヤン選手は天を仰いで大きく息を吐きました。猛追の日本チームとは僅かに0・1の差。1回のラインオーバーにも満たない僅差でした。


 やっぱり自分の気持ちに正直な選手はいいな〜!と思ったのであります。