笑う伴奏生活

ハンブルクから愉快な共演者達を御紹介します。

3人でデュオ

 内輪試宴会の翌日が3人で2台の日だった。

 Y2(出席番号順で後述のピアニストをY1とする)さんは高校からの同級生で、しなやかな演奏と肩の力の抜けた生活ぶりが羨ましかった。何といっても卒業試験直前に、
「卒業したらどうする〜音楽教室とか楽でいいよね〜勝手に弾かせておいてああ上手上手って言って自分は本なんか読んでいればいいんでしょ〜!」
…挙げ句の果てに…


「クビになってもまた別の音楽教室に行けばいいし!」


…と言った人。
 卒業後は音楽教室には行かずにアメリカへ留学。彼女が帰国して私はドイツに来たが交流は続いていた。3年前の冬の一時帰国で久々に会った時に演奏会はしないの〜と訊いたら、


「ソロの演奏会なんてムリムリ!2台の演奏会なら大歓迎よ!」


…ぢゃあ是非一緒に2台の演奏会を!というのがきっかけだった。でも2台の曲だけで一晩の演奏会だと練習が心配だしソロも1曲ずつといっても彼女はまたムリムリ!と言いそうだし…。
 もう1人誘って3人で2曲ずつっていうのはどうだろう?となった。そこで思い付いたのが控えめながらセンスの良い演奏と地味に愉快な言動が注目されていたY1。自己紹介の時間に、


「私の夢は素敵なおばあさんになることです。」


…と言った人。絶対にY2とのデュオも素敵ッ!になるに違いない。
 モーツァルトブラームスは直ぐに決まった。後1曲は数曲の候補の中から投票でシャブリエになった。どの曲も好きで誰がどれを弾くかちょっと迷った。折角だから1曲全員で弾こう!とロッシーニの『セヴィリアの理髪師』序曲の1台6手版を見つけて弾くことにした。
 練習場所も使い勝手の良いスタジオを以前友人に教えてもらっていた。落ち着いた色調の部屋に小さなテーブルが有っておまけにロビーには無料のお茶が用意されていたから毎回最初の20分はお茶会。練習も余裕をもって切り上げてはお茶を頂いて帰って来た。
 スタジオへの道すがら『セヴィリア』という店が有った。何の店か分からず気になっていたら2日後にまたスタジオに現れたY1が軽くエキサイティングに、
「『セヴィリア』開いてた!」
と言った。そして数秒の空白の後に、こう続けた。


「…理髪師だった!」


…全員静かに大爆笑。
 運命を感じた私は帰り道どうしてもセヴィリアで髪を切ってもらいたくなり店に立ち寄ると、完全予約制にも関わらず運良く髪を切ってもらえた。店主はさしずめフィガロであろう。店名はロッシーニのオペラから取られましたかと訊くと良くぞ訊いてくれましたッ!とばかりに、
「そ〜〜ですよ!!」
とお応えになった。


 さっぱりした頭に気を良くし演奏会ではとても楽しく弾けました。Y2も言っていましたがモーツァルトの最終楽章は楽しい時間が終わるのが淋しくてセンチメンタルな演奏になったかも知れません。
 高校・大学の同期生も聴きに来てくれてさながら小同窓会。高校の担任の先生には凡そ30年ぶりに再会しました。報告の言葉は、「まだ弾けました。」でした。先生は、
ブラームスは家内と新婚時代に弾いた想い出の曲です。」
と仰いました。


 後日3人揃って(勿論飲み屋で)チケット精算をしましたが何故か1枚分だけ合わない…。3人とも計算は苦手…。一緒に飲んだ作曲のIの助けも借りてどこをどうしたのかいつの間にか辻褄が合い打楽器のMが遅れて到着した頃には全員スッキリして飲み続け、楽しかった〜またやろうね〜ということに意見が一致しました。