笑う伴奏生活

ハンブルクから愉快な共演者達を御紹介します。

A2&A1

 オルデンブルクからハラハラしながらハンブルクに帰って今学期最後の卒業演奏会。歌うのは具合弟子のA1とA2。

 今学期卒業する学生は入学後直ぐにコロナ禍に突入した人達で、自宅待機期間後もオンラインレッスンが続き難しい学生生活だったに違いない。ソプラノのA1は担当する学生の中で最初にウィルスに感染したが幸い翌週には元気にレッスンに現れた。彼女は2年目に具合先生のクラスに移って来たがその頃から豊かな声が魅力的だった。
 メゾソプラノのA2は入試ではギリギリでの合格だった。初めのうちはコピー譜を無言で差し出して態度が悪いと思ったが直ぐにそれは彼女の1部なのだと分かった。持ち前のマイペースぶりで待機期間中も前進を続けた。彼女のお母様のヴァイオリンと一緒に多重録音でテレマンカンタータバロックピッチ版を作ったのは楽しかった。


 声楽科に於いて私はレッスンでの伴奏者。試験では通常レパートリーコーチの先生達が共演するが或る日A2が私に言った。
「卒業演奏会で一緒に弾いてくれない?」
勿論大歓迎だけどその場合レパートリーコーチの先生にその旨伝えないといけないんぢゃない?機嫌損ねない?と言うと彼女は具合先生と一緒に、
「大丈夫。ちゃんとお伝えするわ!」
と約束した。
 半信半疑だったがその後冬の学内演奏会の打ち上げでA1が、
「私A2と同じ日に卒業演奏会をするの。私とも是非一緒に弾いて!」
と言って来た。それでも尚レパートリーコーチの先生に押されて実現しないのではとの思いも有ったがもし本当に弾けることになったら頑張らねば!と決意。


 2人共元来のマイペースに加えてA1は各大学の入試で忙しくなり演奏会の話を聞かなくなって来た。やっぱりおでこペチペチ先生(レパートリーコーチ)が弾くことになったのかな…と思っていたら演奏会の2週間位前にA1からゲネプロの日程についての連絡が有った。どうやら本当に弾くらしい。曲目は殆ど毎週のレッスンで弾いている曲だから心配はないがプログラムを確認して準備にかかる。
 2人共典型的女声歌手のプログラムではなく渋く通好みの曲目が多い。A2はマーラーの『原光』で始めウェーベルンブラームスに前述のテレマンを挟んでロッシーニの『神の仔羊』で閉めるしA1が歌う歌曲はフランクやレーガーで宗教曲はペルゴレージやファニー・ヘンゼル。今まであまり弾いたことのない曲も多くて楽しく準備した。


 いざ演奏会。A2はこの日に照準を合わせたのが伝わる素晴らしい出来。ロッシーニを歌い終えて向日葵を1輪ずつ共演者に贈った。ハグした時彼女の顔が涙で歪んでいるのが見えた。
 A1は緊張していたのか1番最初を入り間違えたが何故か現代曲で落ち着きを取り戻した。最後に歌ったベナツキーのアリアは本来3番まで有るものの当日何番まで歌うか決めると言っていたが直前に、
『1番だけにして〜…!』
と無言の訴え。きっとエネルギーを使い切っていたに違いない。


 アンコールは2人一緒にギターの伴奏で、『良い旅を!』を歌った。仲良しだった2人の卒業演奏会、共演出来て嬉しかったです。

 

 この日私はA1のリクエストで胸に『愛』の漢字の入ったシャツで演奏。密かに愉快な彼女であった。