笑う伴奏生活

ハンブルクから愉快な共演者達を御紹介します。

フルートの仏様

休暇前にもう一仕事、腹話術人形(フルート・ブラジル)の勤務する音楽院でフルートの仏様(ロシア)の講習会にて伴奏。

「仏様」のあだ名はその風貌と落ち着き、そして忍耐強さから来る。

1997年の神戸国際フルートコンクールに16歳で出場した彼は驚異的な技術力と綺麗な響で期待されていたが、現在世界で最も注目されるフルーティストの一人になった。

講師演奏会で共演するのは昨年に続いて二度目。何れもフルート世界の可能性を自ら押し広げる様な選曲と演奏で、一緒に演奏するにもエネルギーが要る。今年はラヴェルのヴァイオリンの為の名曲「ツィガーヌ」を仏版編曲により演奏。フルートの特性を利用しつつ彼ならではの信じ難いスピードとパワーで作品の本質を見事に表現した。

レッスンでは技巧派フルーティストらしからぬインテリぶりで、何よりも歌を大切にするところが素晴らしい。しっしかしそれより更に素晴らしいのは・・・!

或る生徒がライネッケの定番曲「水の精」を持って来た。昨日の講師演奏会で仏様自身が演奏した曲だ。この生徒は2・3日後に音楽大学の卒業試験を控えているらしい。
第2楽章でごくごく単純な読譜ミス。しっしかも主題だから三回も出てくるし。彼が#なしのcを吹くと仏様が隣で静かに、「c#」。その都度c#を吹き直すものの次回登場の際にはもれなくcを吹きまた仏様が隣で静かに、「c#」。
私ならば三回目で、「てめェ人の言うこと聞いてんのかてめェみたいなボケに付き合ってる暇はねェんだよそれで明後日卒業試験とは笑わせらァ小学校に戻って楽譜の読み方教わって来やがれ!!!」とレッスンを中止するところだが仏様は遂に声のトーンを全く上げることなく何と十回以上も隣で静かに、「c#」と言い続けた。十回という事はリアル仏様を遙かに凌いでいる。

去年も今年も講習会の打ち上げに一緒にビールを飲みまくったが酒の席では共通の友人である日本人フルーティストに教わったという下ネタを日本語で連発(正に隠語ですね)。

次回また御一緒出来る事を願っています。