笑う伴奏生活

ハンブルクから愉快な共演者達を御紹介します。

少し真面目な話を二つ。

 以前も一人いた。二人目が先日現れた。
 一人目はアメリカ人のメゾソプラノの学生。チャイコフスキーの歌劇『ジャンヌ・ダルク』のアリア「森よ、さようなら」の途中で歌えなくなってしまった。内容のあまりの悲しさに耐えられなくて泣き出してしまったのだ。
 二人目は中国人のバリトンの学生で、シューベルトの「さすらい人」を歌っていた。まだ若く少しずづ基本を勉強しており技術や音程が不安定だが、持ち声が素晴らしく師匠の刈り上げ具合先生も期待していて、この日は勉強の成果か発声も音程も良く順調に歌っていたのだが、歌詞に共感し過ぎて悲しくなり途中で歌えなくなってしまった。
 自分では考えられない豊かな感受性。少し羨ましくも思ったがピアノは泣きながらでも弾けるので内心良かったッ!と思った。でも上手く歌える度に泣き出していては困るので何とか感情をコントロールする術を身に着けて行ってもらいたいものだ。ジャンヌ・ダルクを歌っていた彼女の先生は、「家で一人で歌って我慢しないで三回思いっきり泣きなさい。そうしたらきっともう大丈夫よ。」と仰ったがさて、彼女はどんな歌を今歌っているだろう?

 今年もフルートの入学試験が終わった。良く知っている子も何人も受けて非常に辛かった。
 Sは私と同時期に勉強していたがその後憂鬱症のようになり学校を辞めてしまった。良い演奏をしていたのでとても残念だった。
 が、十年経って彼女は復学を試みて入学試験を受けた。一緒に演奏したのも勿論十年振り。発音の安定感は少し落ちていたが一つ一つの音に説得力が有った。空白の期間に彼女の中で音楽は大きく成長していたのだ。
 彼女が入門を希望していたサンタ先生は定年を越えている為新しい生徒を取ることが出来ない。残る二人は、「情緒不安定な人なんて嫌だ~。」と彼女を教える気が無い。大変残念乍ら折角の彼女の願いはどうやら叶えられないことになりそうだ。
 それでも彼女が今後もフルートと一緒に生きていくことを祈っています。