笑う伴奏生活

ハンブルクから愉快な共演者達を御紹介します。

マルチン・レヴァンドフスキ選手讃

 ピアニストの暇な季節、クリスマスでございます。
 先週まではバカバカしい忙しさだったんですよ。或るパーティーで45分待たされて歌手の伴奏をして或るパーティーで50分待たされてチェリストの伴奏をした後ザナエ壮行式に駆け付け(要するに飲み会を逃がしてなるものかッ!)アマチュア演奏家4人の伴奏をしたらウチの学校の一部の生徒より遙かに作品を理解していてショックを受けた後落とし前を付けに行って(要するにお世話になった人にビールをおごって自分も飲んだ)ジャイアンの生徒の学内演奏会を高速で弾いて急いで同僚と食事に行くという忙しい忙しい1週間だった(ロシア民謡『1週間』よりずっとずーっと忙しい)のに、今週は恒例と成りつつあるお坊さんと尼さんとの家庭演奏会のみ。去年よりも少し欲張った曲目で楽しく演奏出来ました。明日から極小旅行に行って参ります。

 リオ五輪からもう4か月、今回も幾つか心に残る試合が有りました。私は長く競技を続ける選手を応援するので、白井選手の銅メダルに沸いた体操男子種目別跳馬では実は同点ながらタイブレーク方式によって4位となったルーマニアドラグレスク選手にメダルをあげたかったし、水谷選手の銅メダルに沸いた卓球男子個人では実は決定戦を争ったベラルーシのサムソノフ選手にメダルをあげたかったんですよね・・・

 もう一人、長年応援しているベテラン選手の話をしましょう。陸上男子800mのポーランドのマルチン・レヴァンドフスキ選手です。現在29歳。
 彼を応援するきっかけになったのは8年前の北京五輪。準決勝で敗退しましたが前回の覇者ボルザコフスキー選手が決勝進出を逃した衝撃のレースで彼の直ぐ後にゴールした為、「スキーが二人か・・・。」と軽く思っただけだったのですが、彼の出身地のシュチェチンに行った事が有ったのでなんとなく注目するようになりました。誰かを応援するきっかけなんてこんなものですよね。
 翌年ベルリンの世界選手権では準決勝にて他の選手の巻き添えで転倒。大きく遅れて悔しそうな表情でゴールしましたが抗議が認められて決勝へ。10人での争いとなった決勝で8位に入り、世界選手権初入賞を果たしました。
 その翌年バルセロナで行われた欧州選手権で優勝。ゴールした時の幸せそうな表情が印象的でした。2011年の大邱での世界選手権では飛び込むようにゴールしましたがメダルに僅かに届かず4位。翌年のロンドン五輪では予選で後続選手に靴を踏まれあわや予選敗退かと思われましたがここでも救済されて準決勝へ。0.15秒届かずに準決勝で涙を呑みました。「決勝は直ぐそこだった。」とのファンサイトへの投稿に無念さが伝わりました。
 2013年のモスクワでの世界選手権で再び4位。またもメダルに届きませんでした。2年後の北京での世界選手権では準決勝総合9位で決勝進出を4大会ぶりに逃します。レース後トラックに座り込み呆然と電光掲示板を見上げる眼差しが忘れられません。競技力が落ちて来たのかと少し心配になりました。
 或る日ファンサイトに、「もうイヤだ!朝から晩までトレーニングばっかりで家族には会えないし、もう走るのなんか辞めてやる~ッ!」という書き込みが!一瞬頭が冷たくなりましたがすぐにエイプリルフールだと気が付きました。1人真に受けたファンの書き込みに、「世界でメダルを獲るまで辞められないよ!」と返信をしてくれたので多くのファンも安心したことでしょう。
 3度目の正直と挑んだリオ五輪。準決勝をリアルタイムで見逃してしまいましたが、出張先のホテルで真夜中に五輪公式サイトで結果を確認しました。彼の名前の右に各組2位以下の中から最もタイムの良かった2人を示す小さな「q」の文字が!真夜中にも関らずホテルの部屋で、「やった!」と叫んでしまいました。遂にレヴァンドフスキ選手が五輪決勝の舞台に立ちます。
 決勝レースはケニアのキプケテル選手が世界記録を上回るペースで引っ掻き回す展開となり、レヴァンドフスキ選手は最後方で1周目を通過しましたが最終的に6位入賞を果たしました。2日経って彼は、「報告が遅れてすみません。自分を独りにしていました。」と思いの丈をファンサイトに綴りました。8年間の思いが氾濫していたのでしょう。
 今日彼のファンサイトで、「応援して下さる皆さんの中から4名にリオ五輪グッズをプレゼント!」と、可愛いお嬢さんが透明な容器の中から4枚の紙片を選ぶ動画が公表された。面白い人だ。
 来年も頑張って下さい!