笑う伴奏生活

ハンブルクから愉快な共演者達を御紹介します。

具合先生と歯だった先生

 私が弾いている2つの声楽クラスの先生をご紹介しましょう。

 具合先生はドイツ人のバリトン歌手で、ライプツィヒの聖トーマス合唱団やハンブルクの北ドイツ放送合唱団の団員でしたが、レッスンの方に重点を置くようになり合唱団を退団して副科声楽の教授になりました。しっしかし担当教授に嫌気がさした学生達に頼られ専科の生徒が増えました。私もハリーポッター先生のレッスンの少なさに耐えられなくなって具合先生の下に避難して来たシンクロ(ソプラノ・ドイツ。因みに毒舌)の計らいで彼のクラスで弾くようになりました。

何故「具合先生」かと申しますと・・・
 彼の生徒さんの卒業演奏会をさあクーナを下ろしましょうさんが聴きました。さあクーナを下ろしましょうさん如何でしたか?
「あの、とても良かったんですけど、前の方の刈り上げ具合が気になって・・・」
さあクーナを下ろしましょうさん、前の方って彼女の先生ですよ・・・

 これがあだ名の起源です。12月には学内演奏会(風邪にかからなかった生徒のみ出演)と社会見学会(クリスマス市で門下生みんなで飲みまくる)が有りました。


 ソプラノの歯だった先生はアメリカ出身で、メトロポリタン歌劇場で活躍していました。
 6人が参加した9年前の教授試験。4番目の参加者の演奏会を同僚と溜息を吐きながら顔を見合わせつつやっとの事で聴き終えて会場を出たところで前述のシンクロを発見。演奏会聴いた?と尋ねると、「うん。」数秒置いて笑顔で、「ひどかったね!!」と。彼女の毒舌の印象は揺るぎのないものになりました。
 次が歯だった先生でした。受講した馬鹿な女の子がレッスンにケチをつけるのをあの手この手で試行錯誤する試練のような試験になりましたがお陰で歯だった先生の引き出しの多さが明かされました。
 試験を終えた彼女にシンクロが労いの言葉をかけました。
「とても素晴らしかったです。貴方に幸運が訪れますように。」

 何故「歯だった先生」かと申しますと・・・
 目出度く教授に就任されまして数ヶ月後、メゾソプラノのS(ギリシャ)にくっついて教授試験以来初めて彼女のレッスンに行きました。彼女の私への最初の台詞は、
「貴方もハリボ如何?」
 ハリボはドイツで人気のグミです。日本のものよりも少し硬めです。レッスンはハリボと共に進行しました。
Parto〜🎵
「Aはもっと明るく!」
una voce〜🎵
「響を前に!」
va〜🎵
「exactly !」
Abend ist〜🎵
「それは私の歯だった!」
・・・は?
 ハリボを食べていたら歯の王冠が取れてしまったそうで、10年間一緒に生きてきたのにもう2度とハリボなんて食べないわとおっしゃいました。

 先月郊外での出張学内演奏会の際に楽屋には歯だった先生差し入れのハリボが2・3袋置かれていました。禁ハリボ期間は終了した模様です。