笑う伴奏生活

ハンブルクから愉快な共演者達を御紹介します。

レーガー生誕150周年の終わりに

 2023年はドイツ・後期ロマン派の作曲家マックス・レーガーの生誕150周年だった。私が初めてレーガーの曲に出会ったのは真面目にピアノを始めるより前で、子供向けの曲集に収められていた『あまりにも大胆な!』という曲だった。背景を何も知らずに弾いてロックのようなノリの良さを感じて気に入った。

 真面目にピアノを始めて音楽高校に入ったら初見のH先生が度々教材としてレーガーの小品を持って来られた。一見簡単そうに見えた。私は初見(だけ)が比較的得意だったのでいい気になってかなりの高速で弾き始めたら毎小節止まりまくった…。その時からレーガーには一筋縄ではいかない難しさを感じていた。
 子供の頃から隠れた名曲を探すのが好きで、ある時ホルヘ・ボレットの弾く晩年の大作テレマン変奏曲作品134のCDを見つけて聴いた。


 絶対弾きた〜い!


 大変な難曲でおまけに繰り返し無しでも30分かかる大曲。高校の卒業試験にはどう考えても無理だ…。でもその時のやる気は4年経っても衰えず大学の卒業試験で弾いた。


 全然弾けなかった…。


 その後27歳・35歳の時に弾きいずれも理想に遥かに届かず。没後100周年の2016年にも弾いたが少しマシになった。この時やっとレーガーの年齢に追いついていた。


 その間にクラリネットソナタ第3番に出会った。初めて聴いた時にはそれ程惹かれなかったが何度か聴くうちに第3楽章の切ない旋律が耳に残るようになり、それが最終楽章のコーダで拍子を変えて還って来た時にはもう(言葉が見当たらない)…。幸運にも我が校の無愛想先生がレーガーが好きで度々弾く機会を得ております。
 更にその数年後チェロ・ソナタ第4番をレーガーが暮らしたこともあるイェナ出身のお子ちゃまHと共演しましたがこれまた複雑で習得に時間が果てしなくかかりました。レーガーが好んで用いたガヴォットのリズムに似た第4楽章の不思議な魅力に威嚇されて全然上手く弾けませんでした。凡そ10年後にレーガー没後100年を記念して再びお子ちゃまHと演奏してやっと思い通りに弾けました。その数ヶ月後に彼は事故で亡くなりこれが最後の共演になりました。


 兎に角どの曲も弾くのが難しい上に難解なのでレーガーを敬遠する演奏家が多く、レーガーといえば、
「『マリアの子守歌』なら知ってる。綺麗よね。」
…これはベートーヴェンといえばエリーゼの為に、サン=サーンスといえば白鳥、エルガーといえば愛の挨拶というのと似たようなもの。または、
「学生の時に弾かされたけど楽譜はどっかに行っちゃったわ。」
といった意見ばかり。レーガーの魅力を語り合える相手は中々いません。といっても私もそれらの曲しか演奏経験がありませんがね。


 生誕150年にあたって前述の『あまりにも大胆な!』を含む『青年時代より』作品17か4年前にメチャクチャ弾いてしまった『美しく青きドナウによる即興曲』に再挑戦するか最晩年の曲集『暖炉のそばの夢』作品143をどれか仕上げたかったもののいずれもとても無理。良く考えたら今年こそテレマン変奏曲をちゃんと弾くチャンスでは?と思い始めた。しかもあの曲は体力も敏捷性も必要。もしかして最後のチャンスかも…。
 年末ギリギリ間に合わせて録画しました。変奏毎に編集しましたが今の私にはこれが精一杯です。

 

https://youtu.be/NAit1mCbk-w?si=-xGClNDLQQUlr8Wr


 それで今年の年末旅行はヴァイデンから始めました。4年ぶり4度目の訪問ですが今回は勝手な感慨深さが(バカ)…。偶然泊まったホテルのレストランにはレーガーの人形が飾ってありました。

 

f:id:KomikerpianistNI:20231231062604j:image


でもレーガーはもう2年長く生きたはずなんだけど…。


 レーガー記念の年は後40年以上来ませんが今後も弾ける内にどんどんレーガー作品を弾きたいです。


 良いお年を!