笑う伴奏生活

ハンブルクから愉快な共演者達を御紹介します。

クリスマス前の音楽

 12月14日。今学期2回目の歯だったクラス学内演奏会。クリスマス気分が漂う中『ヘンゼルとグレーテル』『眠るみどり児イエス』『ハレルヤ』といったクリスマスらしい曲が並んだが、讃美歌『さやかに星はきらめき』を歌う予定だったF(中国)が残念ながら病欠。
 しかしオーガナイズ悪し。前回に引き続き4人のピアニストが総出演したがプロローグとエピローグの重唱を誰が弾くのか誰も知らない。プログラムには歌版おじさん(ロシア)の名前が載っているがゲネプロでは残念女(ブルガリア)が弾いた。重唱に先立つアリアを歌うのは私が担当しているB(ドイツ)。
 …結局プロローグは私が、エピローグは歌版おじさんが弾くことにした。残念女はゲネプロ無料サービスになった…。こうしてオーガナイズの不満はコレペティ達の結束を強めていくのである。
 でも実は今日は歯だった先生の誕生日!だから大目に見てあげました。FBには42歳と書いてありましたが実際には62歳です。


 12月17日。3ヶ月の同僚A(ブルガリア)が私を紹介してくれてブレーメンの室内管弦楽団オーボエの研修生のオーディションの伴奏に。例によって前日にブレーメン入りして友人と飲む。今回都合がついたのはフルート製作者兼フルーティストのワカメちゃん(日本)だけ。実は彼女は明日ハンブルクでのサンタ先生初見祭りに参加するので明日も一緒に飲む予定。
 なのでオーディションがあまり長引くとサンタ祭りに間に合わない。学校のホールを予約しているのは私だから私が遅れると誰もホールに入れない。オーディション受験者の人数は毎回違う(過去最少記録・2人)がなるべく少なく来ますように…。
 …願い虚しく19人来た。大抵1次審査ではモーツァルトの協奏曲のみだが今日は珍しくシュトラウスの協奏曲の緩徐楽章も課題になっているので計36回伴奏!今までにも20人を越えるヴァイオリンの参加者を伴奏したことはあるもののその時は1次審査はモーツァルトだけ。今日は個人的新記録かも知れない。
 流石有名なオーケストラだけあって優秀な若手が集まった。が傑出して良い人も悪い人も見当たらず審査は難しかったに違いない。審査をした5人の木管楽器奏者はみんなとてもフレンドリーで演奏が終わる度に拍手を送っていた。


 3時間ほぼ弾きっぱなし(審査員は聴きっぱなし)て大体予定通り午後1時に終わったのでサンタ会には電車が恐しく遅れなければ間に合う(しかしこれが冗談じゃなくドイツの鉄道は頻繁にとてつもなく遅れるのです)。クリスマスマーケットをフラフラしたかったが日曜だったので大混雑。速やかに駅に向かいました。
 電車は遅れずにハンブルクに着きワカメちゃんも時間前に学校に現れいつも遅れて来ては渋滞がどうの駐車場がどうのと不満タラタラのサンタ先生もなんと定時に到着(!!!)。30分遅れるはずだったさあクーナを下ろしましょうさん(日本)も運良く早めに到着。さあサンタと共にクリスマス初見祭りを始めましょう!
 サンタ先生のお宅には塔が出来るほどのバロック時代のフルート重奏曲の楽譜が眠っているそうで、いつ買ったのかもう分からないものも買ったまま1度も音を出していないものもいっぱい有るそうです。サンタ先生自身もこの初見大会は結構楽しみにしている様子。
 普段は行事や録音で塞がっている学校で1番綺麗なホールが上手いこと取れました。やはりサンタクロースの神通力か?バロック3重奏曲を片っ端から試奏したりワカメちゃんが独奏曲を演奏して先生の助言をもらったりした後でサンタ先生が最近買ったフルートとピアノの為の曲をちょっと一緒に弾いてみてくれと楽譜を渡しました。ドイツの作曲家の作品でタイトルは『ロシア風幻想曲』。


 楽譜を開いてイヤ〜な予感。
「多分この前奏はアホですよ。同じ和音を2小節ずつ4回も…。」


 私が前奏を弾き始めたらさあクーナを下ろしましょうさんとワカメちゃんの口元が自然とにま〜と緩むのが見えました。ゆっくりの前半部分に速い舞曲が続きます。ドップラーの有名な『ハンガリー田園幻想曲』のロシア版を作りたかったのでしょう。


 前半を終えてサンタ先生が言いました。
「クソじゃ!」


 全員爆笑。作曲家さんすみません…。
 舞曲部分でも奇跡は起きず遂に最後まで弾かずに楽譜を閉じました…。

 

 さあクーナを下ろしましょうさんはクリスマス2重奏曲集とサンタ帽を持って来て下さいました。サンタ先生は帽子も中々他の人に譲らずクリスマス曲集も次から次へと吹き続けました。

https://youtu.be/QFXLihQ7Fq8?si=qAaSBCmXgtBNdVT4


 終わった後は近くでは唯一高過ぎないイタリアレストランで食事をしましたが飲み物は先生がご馳走して下さいました。やっぱり先生はホントのサンタさんだったんだ!クリスマスプレゼントをくれた!と一同喜びまた来月やりましょうね〜と家路についたのでありました。