笑う伴奏生活

ハンブルクから愉快な共演者達を御紹介します。

料理長卒業

 5月31日、料理長(オーボエ・ドイツ)卒業演奏会。昨年のイタリアでの合宿で台所をとりまとめてくれた人。交換留学先のチューリヒで大学院進学が決まっている。

 5年前、学部の入試志願者が1人しかいなくてオーボエを吹き始めてまだ1年位しか経っていなかった彼女を誉め殺し先生が、「今後どうなるか見てみましょう。」と合格させた。その時点ではとても合格レヴェルとは思えず私は彼女を受け入れるのには反対だった。
 オーボエを始めたのが遅かったが音楽的素養は高かった。どうやら音楽一家らしい。毎回演奏会や試験の度に成長が手に取るように分かって楽しかった。流石誉め殺し先生。私よりも先見の明が!
 比較的大らかな性格の人が多いオーボエ奏者だが彼女からは自分の演奏に関してネガティヴ発言が目立つ。師匠が誉め殺し先生だけに…


誉「とても素晴らしい。素敵。ホントに、凄く良いわ。最高!」
料「最高音のロングトーンの響きが細過ぎてその上音程も低くないですか?」


こういった会話が1時間のレッスン中に5回位。落武者先生は、「吹いた後いっつも大泣きする子の試験は何日だったっけ?」と名前を忘れた際に言っていた。
 チューリヒから機会を見つけてハンブルクにやって来て演奏会数週間前から2回だけ効率良く合わせ。ヴィーダーケーアとイヴォンという1度も聞いたことのない作曲家の作品とブリテンの我が愛しの変奏曲を演奏するが初顔合わせの2曲はシンプルに聴こえて実はかなりの曲者。いつまで経っても弾けるようにならず当日まで焦って練習した。
 楽器の演奏力が付いたのは勿論のこと舞台人としても知らないうちに凄く成長していて開演前のテンションは高過ぎる程高いしいざ吹き始めると新しいアイディアが次々現れるしスリルの連続。落武者先生も、「退屈するということが全く無い演奏会だった!」と評した。
 殆ど初心者でやって来てネガティヴ発言と大泣きを繰り返しながら5年後に聴衆を大いに楽しませた料理長。チューリヒで大学院に進む為ハンブルクを去るが私の17年の伴奏生活の中でも記憶に残る学生になった。