笑う伴奏生活

ハンブルクから愉快な共演者達を御紹介します。

モーツァルト祭り再び

 1月28日、学内モーツァルト声楽コンクール。多分5年ぶりにシャンデリア輝くメンデルスゾーン・ホールに満員のお客様が集まった。司会のヴェニガー先生(イギリス)は超フレンドリーで彼の明るく柔らかい声は会場をホンワカした雰囲気で包みモーツァルト好きのお客様からは曲目が告げられる度に、「フゥ〜ン!」「ワォ〜ン!」と歓声が洩れシックなドレスを着た学生達が美しい音楽に挑む素敵ッ!な日曜日がやっと帰って来たッ!

 …ですがこのコンクール、少々お祭りっぽい要素が有りまして、主催の財団の役員が数名審査に加わる他聴衆もお気に入りの学生に1票を投じることが出来る(はず…。システムを良く分かっていない)。なので蓋を開けてみると声楽教授陣がどびっくりする結果が出現することもしばしば。要は、
「まぁぁちっちゃくて可愛い女の子!あたしあの子に入れるわっ!」
「私この歌大好き!昔歌ったことが有るのよ!」
「僕と同じ街の出身だ!是非この子に!」
…なーんてことも有り得るのぢゃ。


 私が弾いた4人はだーれも入賞せず。これには私もびっくり。


・ビンタ(ソプラノ・ドイツ)
名前が印象的なので本名で紹介します。まだ1年生なので未完成だが彼女の目標は達成出来たようで歯だった先生も満足。ベトナム在住の卒業生(ピアノ・日本)が中継を観て、「彼女もとっても素敵でしたッ!」とメッセージをくれた!感動!
・J(ソプラノ・ドイツ)
難しいカデンツァを美し〜く歌い終わったらその続きを歌い忘れたらしいので私もそこまでで弾くのを辞めて素知らぬふり。具合先生以外は誰も気づいていないであろうと思っていたら歌った本人も気づいていなかったッ!
・S(メゾソプラノ・韓国)
実力者であまり知られていないカンタータを見事に歌ったが或る審査員の言うことには、「私あの曲知らないも〜ん。」だそうで…。何ということ…。
・早口E(ソプラノ・スウェーデン)
ハイドンを素晴らしく歌った後の珍しいアリアはイマイチの出来。聴衆の人気が高かったらしく本人も後日それを聞いて喜んでいた。


 そして蓋を開けてみたら担当教官以外の教授陣が誰1人投票していない学生が上位をしめて占め一同仰天。全員アジア人女性。前にアジアの実力者が1人も入賞しなかった年もあったので審査の傾向は毎回変わるらしい。
 でも家に帰って第1位入賞者の歌を聴いたが………。『魔笛』の夜の女王のアリアは聴き映えも素人受けもするが後日歯だった先生の、
「コロラトゥーラの出来ない夜の女王なんて夜の女王じゃないわ。」
という言葉が頭を回りました…。
 何はともあれ以前の明るい雰囲気が戻って来たのは喜ばしいこと。元々お祭りですから結果に一喜一憂すべきではないものの、以前1位をもらったら有頂天になってその後殆ど成長しなかった学生もいたのでそうならないように気をつけて…なんて知ったこっちゃないですね。なりたきゃ勝手に有頂天になりなさーい。

今度はバンベルク響

 そして翌日バンベルク響を聴きに。曲目はベートーヴェン交響曲第7番とストラヴィンスキー春の祭典。指揮は8年前から常任のヤクブ・フルーシャ。

 7番はベートーヴェン交響曲の中でも個人的に1番のお気に入り。第2楽章は随分クールだし最終楽章はかなり飛ばしてるなー。
 春の祭典はどんな強奏でも響きが整然としていて流石と思わせた。こういう複雑な曲はやはり良いオケで聴かなくては!もっと演奏会を聴かなくては!と1人勝手に客席で盛り上がる。
 しっしかし終演後A先輩(ヴァイオリン)に会うと彼女は指揮者に対して少々不満なようで。
「練習の時と全然違うテンポで振るんだもん。」
なるほどやはり終楽章は速かったのか…。以前同僚のK先生が或る学生の演奏会の後で、
「今までに弾いたことのないような速さで弾き始めたのよ!」
とキレていたのを思い出した。
 長年バンベルク響でホルンを吹いてきたWさんは今回のハンブルク公演を最後に引退するそうで、A先輩のご主人T君(テューバ)は、
「彼がオケにいないなんて想像出来ない。」
としんみりです。Wさんの奥様もハンブルクにいらしていて私も宴席にお邪魔しました。


 2日後、3回目の公演を終えたA夫妻と一昨日間に合わなかったビアホールへ。彼女によるとややオーバーアクションの指揮者は翌日の新聞で、
『指揮者は団員の中にダイブするのではないかと思った。』という批評をよんでショックを受け、続く演奏会では動きが随分大人しくなったとか。そんな批評を気にする指揮者も指揮者だがそんなことを書く批評家も批評家だとバカバカしく思った。


 病み上がりで2日連続タダ券をもらって聴いた良いオケの演奏会。幸せ〜でしたッ!

 

 …1ヶ月も経って書いている私。学期末には急に色々起こるもので…。

病明けの贅沢

 1週間以上ベッドに篭っていたのは前の前の大家さんのお墓参りに行った時に別な霊を連れて来たのでは?なんて思ったりもしたがやっと回復。そしたら1月23日にはアムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団が、24日にはバンベルク交響楽団ハンブルクで演奏会をする!

 コンセルトヘボウでは同級生が、バンベルクでは先輩がずっとずーっと前からヴァイオリンを弾いていて、ハンブルクで演奏会が有った時には会って飲んではいたものの演奏会を聴いたことはなかった。
 とはいえウェブサイトにはどちらも売り切れと書いてある。そうでしょうともそうでしょうとも!どちらも伝統有る人気のオーケストラ。4・5日前にチケットが残っている訳がない。
 だがどちらも友人が手配してくれたッ!特にバンベルクの方はウェイティング・リストの3番目でチケットが2枚しか出ないから残念ながら…という連絡の数分後に、「2番目の人が要らないって!チケット有るよ!」との知らせを受け取り、要らないと言った2番目の人に感謝しながら会場にすッ飛んで行った。


 コンセルトヘボウのプログラムはモーツァルトのピアノ協奏曲第17番とブルックナー交響曲第7番。指揮は巨匠チョン・ミュンフン。ピアニストはこれまた巨匠エマニュエル・アックス。指揮者は前日に71歳の誕生日を迎えたばかりだそうだが若者の様に颯爽としており音楽も然り。しかし無駄なアクションは一切無く後ろから見ていると時々指揮をしていないように見える時も。隅々まで行き届いたフレージングにリハーサル中は厳しいのかな?と思ってヴァイオリンのJに訊くと、
「それが厳しくないの!ゲネプロなんて弦の序奏だけで、『いいね!』って辞めちゃったから管の人達が不安になって、『もっとやって下さい!』って言ったくらい。」
と意外な答え。でもそれでああいう演奏になるなら最高の指揮者ぢゃ〜ん!最も団員の能力が高ければこそだけど。
 ピアノのアックスはこれまでにも勧められながら何度も聴き逃して来た人。モーツァルトの協奏曲の中でも特に好きな17番だし開演前からのび太が冒険漫画を読む時のようなワクワク感。
 音色は明るく硬めで大理石を思わせる。とても75歳とは思えない鋭敏さとコントロール力!オーケストラの全てのパートを理解していてその中を自由に泳ぎ回っているよう。分散和音の部分も時には管楽器のように響く。


 凄く楽しかったッ!


 アンコールでショパンヘ短調夜想曲を演奏。楷書体でひとつひとつの旋律を丁寧に紡いで行く。前回のショパン・コンクールで拒絶反応が起きるほど聴いた左右時間差攻撃はただの1度も無かった。
 後半のブルックナーの第7交響曲は演奏時間1時間を超える大曲。長いと軽い気持ちでは聴けないからと敬遠しがち。そして敬遠して来たのは難解だからと1人勝手に勘違い。良いオーケストラでライヴで聴いたらどの瞬間も楽しくて!次から次へと新しい事件が起こる壮大なアメリカ映画のようだった。


 コンセルトヘボウだけで長くなったのでバンベルクは次回。

ジャイアンのいないジャイアンリサイタル

 1月26日、ジャイアンリサイタル。但しジャイアン無し。代わりにピッコロを指導しているジャイの同僚Dが監視及び証拠の録画を任命された(パシリ)。

 新入生が2人。中国からユーチャンが来たから1年先輩の台湾のユーシャンとの区別が難しくなっちゃった…。
 もう1人のフランスのLは私が好きな街リールの出身。フランス人には天気の悪さで有名らしいからハンブルクでも鬱にならないであろう。「パリの人達は冷たくて嫌い!」と毒舌にも期待が持てる。


 古典の協奏曲が2曲有ってしかもそれぞれ新入生が吹くのに何故か大学院生のKが吹くドヴォルザークソナチネで開始。謎の曲順である。
 そのドヴォルザークだがレッスンではジャイアンが最初ッから最後まで大声で歌いまくる(本ジャイほどヘタではない)もんだから遂にキレて、
「辞めなさいッ!うるさくてKの音が聴こえないッ!」
と言ったら敵も去るもの、
「問題はそこだ!Kはもっと思いっきり吹かなきゃダメだ!」
あー言えばこー言い…。


 いざ演奏会はジャイ不在の為かみんなのび〜のび吹いてDも関心の出来。後日学校でジャイとすれ違ったら、
「録画見たぜ!サイコーじゃ〜ん!オレ様がいなかったからかもなダハハハ〜!」
だそうで。本人の口から出たら返す言葉がございませんでした。

病を押す必要もなく…

 1月19日にやっと今年初演奏会。クラリネットの学内演奏会。

 本来は無愛想先生クラスの演奏会だったのだが彼のクラスには今2人しか生徒がいないのでもう1つのA先生のクラスからも2人出るらしい。
 1週間前になってA先生からメッセージ。
「ウチの生徒のDとLのも弾いてくんない?」
 いつものこと、と呆れもせず承諾した。ところがその2人本人もホントに吹くのかどうか分からないと言う。
 前々日にその2人はやっぱり吹かないらしいと判明。合わせが無駄になった。残りの連中も直前まで連絡して来ない。
 …実はみんな怠け者(か余裕をかましている)で良かったッ!演奏会前日まで熱が下がらなくて1週間ずっとずーっとベッドの中におりました。前日になってやっとやーっとイトサン攻撃して来た学生達を病気だからと喜び勇んで断って翌日の演奏会直前になんと初ピアノ合わせ!!!みんなこれに懲りてもっと早く連絡するようになれぼ良いけど…無理だろうな。
 前半を客席で聴いていたベテラン学生キメキメ君(ドイツ)に、
「あの子達全然ピアノパートを理解していないみたい。」
とバレバレでした…。

おまけ、イェナ編。

 1月3日。後1泊したらハンブルクに戻らねばなりません(涙)。さてどこに寄っていこう?

 ミルテンベルクは1年前に行って巨人亭休みだったしコルマールのホテルがバスタブ付きだったからカッセルのいつものホテルぢゃなくても良いしカールスルーエ近過ぎるしツェレまで行ったらハンブルク帰れッ!って感じだし…と無意味に悩ましい(いっそ一気に帰ったらなどと言わないでいただきたい)。
 イェナでお子ちゃまHのお墓参りには毎年1度は行きたいが4月に行ったしな、と思ったものの今回はレーガーの郷ヴァイデンに行ったしその報告も兼ねてやっぱりイェナに泊まることにした。
 予約したホテルは何と12時から14時までしかレセプションが開いてないって!こんなの初めて!入口横のキーボックスに暗証番号を入力して鍵を受け取る。こういうのは妙に緊張するんですよね。
 部屋に入ったら山小屋風で素敵ッ!素敵ですッ!おまけに台所とバスタブまでッ!次回は絶ッッッ対連泊したいッ!

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 近所の老舗で食事をして路面電車が来ないウチに道路を横切ろうとして…


ビタン!


 暗くて足元の鎖に気づかずすッ転んだッ!両手を派手について3週間経った今も痛みが残ってる〜!ホントにバカです。
 翌朝ホテルに荷物を預かってもらってお子ちゃまHのお墓参りに。レーガーの街に行ったことと昨日すッ転んだことを報告して来ました。相変わらず間抜けな奴と思ったに違いありません。そして昨日すッ転んだ現場を確認したら鎖が張ってあるのはほんの2・3メートルだけでその右も左も全然無い!良くも器用に鎖を選んですッ転んだものだ…。

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現場検証


 かくしてハンブルクに戻って来て学校が始まりましたがまだまだヒマ。おまけに風邪までひいた。残り11ヶ月は生き生きしてやる。

元日のアルザスワイン

 2024年元旦。去年に引き続き元日徒歩越境を敢行して幸せです。でもそれは実に簡単でした。国境駅ケールからどなたも歩いてじゅっぷんで隣国フランスに行けます。

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ライン川に架かる橋を渡ればそこはもうストラスブール

 中央駅まで路面電車に乗ります。そこからコルマールまでは電車で凡そ30分。

 フランスはアルザス地方の街コルマール。以前友人が住んでいて彼を訪ねた先輩が『テーマパークの街』と称したそうで行きた〜い行きた〜いと思っていたら友人は完全帰国してしまいました(涙)。隣の隣の隣町(くらい)のゲブヴィレールという小さな村でトランペットのコンクールの伴奏をしに行った時にコルマールでタクシーを拾いましたが心も懐も余裕が無かったので街の眺めることが出来ませんでした(また涙)。なので今回が初めてのコルマール。ウルム同様かそれ以上にわくわくして到着すると雨でした(やっぱり涙)。
 ホテルのレセプションの方々は皆さんドイツ語が堪能なのに何故か英語に挑戦したりして…やはりちっとも話せませんでしたが機会が有れば試した方がと思って…。
 雨ですがちょっと夕暮れの街を散歩。確かにこれはテーマパークかも。

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明日が楽しみです。明日はフライブルクから高校の同級生Cさん(ハープ)と彼氏Sさん(ドイツ)と合流してアルザスワインを楽しむ予定です。Sさんは運転するので殆ど飲めませんが彼にお会いするのは凡そ20年ぶり!変わったか変わっていないかこちらも楽しみです。

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夜のサンマルタン大聖堂


 開いていた近所のブラッセリーで元日からアルザスワインを…。

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 翌日、ごった返す観光客。ショック!ウンターリンデン美術館定休日だ〜!確かめてから行けって?悪かったな。気を取り直して旧市街を回る。

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素敵ッ!素敵ですッ!

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ヴェニス

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市場

 

 ウンターリンデンが閉まっていたので折角だから別の美術館を是非…。見つけたのは絵本作家アンシの美術館。

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この絵はどこかで絶対に見たことがある!


 夕方Cさん達とカフェで合流。Sさんはほぼ記憶のままでした。前回よりも私のドイツ語が少しマシになったので前回よりも良く知り合えた気がします。

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夕食はこの伝統的アルザスレストランに並びましたッ!

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 かくして我が2024年は明けたのであります。因みにコルマールからフライブルクまでは車で45分程度だそうでハンブルクからブレーメンへ行くよりもずっとずーっと近い…。ブレーメンのビールがベッ◯スであることを考えると羨ましいこと至極なのであります。