笑う伴奏生活

ハンブルクから愉快な共演者達を御紹介します。

久々のシュトゥットガルト 其の2

 演奏会数日前に学校でジャイアンに遭遇すると何と!

「オレ様もシュトゥットガルトに行くぜ!Dの両親に招待されたんだ!」
…何でそこまで。
 ジャイアンはびっくり企画だからDには言うなよと言ってるけど言うつもりないし。平常心を失ったら困るし。
 しかし前日また中央駅を大回りしてシュトゥットガルト音大に汗ダラダラで辿り着くとDが、
「ところてジャイアン先生が来るかも知れないわよ。」
と言う。な〜んだ、内緒ぢゃないのか。心配した平常心もどうやらジャイアンが来るか来ないかでは全く影響が無さそうなので一安心。
 演奏会は定番曲『スペインのフォリア』(無伴奏)から始まった。その間私は舞台袖で扇子であおぎ続けたが演奏時間は僅か5・6分。シュトラウスは約30分間扇子なし…。
 先週のレッスンで小パニックになったシュトラウスは堅実にしかも堂々と。リズムが不安で前日に何度も確認した場所も全て落ち着いて吹いた。良い出来と思ったが本人は袖に戻るや否や厳しい表情を見せ、
「大きなミスは無かったけど音程はどうだったか分からないわ…。」
と言った。師匠のF先生譲りだ…。最もF先生は、

「音程悪くなかった?強弱ちゃんと聞こえた?」

と泣きそうな顔で訊いていたからそれより大分男らしい(男女入れ替え物語)。
 続いて私も初めて聴く現代独奏曲。アルフテルの『デブラ』を思わせる、機械に感情が吹き込まれたような面白い作品。
 最後のオーボエの元秘書(Fより改名)との3重奏『ウィリアム・テル幻想曲』は想い出の曲。昨夏のフライブルクでの元秘書のコンクールのセミファイナルに用意していて、Dもシュトゥットガルトからやって来たのだがセミファイナル進出ならず、3人で飲んで遊んで帰って来た。その1ヶ月後の元秘書の卒業演奏会で今度こそお披露目のはずだったのだが当時は風邪の症状の有る人の入構が禁じられてらおり、風邪をひいたDが入口で咳をしているのを目敏に見つけた時の守衛キックさん(後に廃業)がDの入構を拒否。チェリストが学長にまで掛け合ってくれたものの規則は尊重せねばならず、またしても演奏出来なかった過去が有った。やっと吹けるという嬉しさも勿論のこと、

「この音変よね。吹くの辞めましょ。分りゃしないわよ(元秘書)!」

などの愉快な練習風景も手伝って楽しく弾いて来ました。プロのオーケストラでの演奏経験を持ち、現在も入団を目指す2人のプロ意識は高く舞台上での集中力も流石。会場にはドイツ中からDの旧友達が駆けつけ大変盛り上がった。
 私は1時間だけ一緒にお祝いしてF先生とジャイアンから避難する心算。明後日までに博士論文を提出しないといけない元F弟子のG君(スペイン)は録画をしてくれた後帰って論文書く〜と言うのをみんなで打ち上げに引きずって行った。
「ちゃあ君が帰る時に僕も帰ろ〜っと。」
と言っていたが私がお先に失礼しても彼は引き続き飲んでいた。論文は間に合ったのだろうか?
 Dと同級生だったというLはなんとヨットのドイツ代表選手で昨年の東京五輪に参加したとか。
「天気が良かったので競技会場からは富士山が望めたのよ!」
と想い出を語ってくれた。


 かくして私はあか姉さんの紹介してくれる次なるビアガーデンへ。後日元秘書の言うことには、
「私あの夜は2時間しか寝なかったわ…。」
だそうで。盛り上がったようで良かったですねー!