笑う伴奏生活

ハンブルクから愉快な共演者達を御紹介します。

シルデ先生の想い出(2)

 先生は私が英語が全然出来ないのをご承知で日本語とゆ〜っくりの英語の混じった留守電メッセージを下さった。
「ノブエサン、シルデデス。……ナンジ…アシタ……did you receive my fax ? I said tomorrow... from... ten o’clock. ニチヨウビ ハ ジュウジ カラ……クダサイ!サヨナラ。」
 最後の「サヨナラ」が完璧にタラちゃんのアクセントで、以後友達の間で真似が流行る。


 フランスのコンクールを受けることにしたら新曲課題がセ◯◯ュ・◯ッ◯という作曲家の書いたいくつフォルテを書いたら気が済むのかと思わせるとんでもない曲!しかも題が「喧噪」。譜読みすらする気が起きなかった。
 他の曲を持ってシルデ先生のお宅に伺って何曲も聴いて下さった後、先生は頭を抱えて(演技です。お茶目です)言われた。
「ノブエサン、せ◯◯ゅ・◯っ◯は練習シテイマスカ?」
あまりにもサボっていたので作曲者の名前を聞いてもピンと来ずポカンとしていたら、
「せ◯◯ゅ・◯っ◯デス。こんくーるノ課題曲デス。」
と続きを。やっと課題曲の存在を思い出して嫌な顔をしていると、
「アレハ音楽デハアリマセン。最初カラ最後マデ怒ッテバッカリ…音楽的ナ音ハ1ツモ有リマセン。」
正にその通り!と思ったので、
「同感です!練習したくな〜い!」
と言うと、相変わらず頭を抱えたまま甲高い声でゆっくりと、
「デモシナキャイケマセン…。」
と仰いました。


 噂の課題曲はセミファイナルで演奏された為、わざわざフランスまで行って予備審査も通らなかった私はめでたく弾かずに済んだ。そのコンクールでは最終的に第2位に入賞した盲目のピアニストが点字楽譜を使って練習し、見事に暗譜演奏したそうである。私の何千倍努力されたか分からない。


 今でも状況が緊迫しているのに練習したくない時には、
「デモシナキャイケマセン…。」
とわざと甲高い声で独り言を言って弾き始めることがある。