笑う伴奏生活

ハンブルクから愉快な共演者達を御紹介します。

ズィルトでオペラ!

 或る水曜日、知らない人からメッセージ。具合先生の元生徒で日曜日に上演予定のテレマンの歌劇のピアニストがウィルス検査で陽性反応を示したそうだ。

 え〜後4日しかないのにオペラまるまる1曲〜?テレマンならそんなに難しくはないだろうし週末は予定ないしやってやれないことはないけど場所はどこ〜?


 …ズィルト。


 ズィルトいえば北海に浮かぶドイツでも有数の高級リゾートアイランド。週末の天気は良さそう。


 …やる(超単純)。


 古楽風に半音下げた移調譜をメールで送ってもらって図書館で借りた原調のピアノ譜を見ながら補筆。日曜までには余裕で間に合うぜ、フッ(この下りは高校の同級生の得意なフレーズだった)。
 ハンブルクの誇る作曲家テレマン(聖ミヒャエル教会のオルガニストにバッハではなく彼を選んだのはハンブルクの大きな間違いだったと言う人もいっぱいいるが)は歌劇を50曲手掛けたそうだがその内完全な型で現存するのは10曲だそうで、今回演奏する『ピンピノーネ』は元々ヘンデルの歌劇『タメルラーノ』の間奏曲として作曲されたという1時間程度の1幕もの(初演もハンブルク!)。若い女中が年寄りの金持ちと結婚してやりたい放題の結婚生活を送るというバカバカしいことこの上ない内容。でも筋が単純だと演奏する時に余計なことを考えなくてすむ。


 ズィルト島には2回だけ、島の入口の街カイトゥムを散歩しただけで中心地ヴェスターランドにもまだ行ったことがない。今回演奏する会場が有るのは更に奥のクラップホルトタールという地区。緯度はデンマークとの国境よりも北で、携帯電話も1度デンマークの電波を受信してしまった。今回はデンマークとの国境の街ニービュルからカートレインで入ったが、カイトゥム到着直前には両側の窓下まで海が迫りまるで海の上を走っているような感覚になる。島の中心地ヴェスターランドを過ぎて目的地に近づくと普段見られない風景が次々と現れる。

 会場は小さな文化村のような雰囲気で、広い敷地内に食堂や宿泊施設を始め色々な設備が整っている。私が泊まるのは『パック』という名の個室。パックと言えばシェイクスピアの『真夏の夜の夢』に登場する妖精。わくわくしながら探すと…。

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ここに泊まれるなんて…売店は無いしシャワーとトイレは外だけどもうそんなことどうでもいい…。


 ソプラノのEはフィンランドの出身で、もう10年以上前に亡くなったT先生の生徒さんだった。彼女の門下生達とのオイティンでのウェーバーの夕べは楽しかった。Eはといえばドイツ語がペラペラで劇中のセリフも流暢でコミカル。
 バリトンのTは情けないオヤジ役が何故かぴったりハマるキャラクター。設置された座席数ギリギリのお客様もとても楽しんでくれた様子だった。


 後は暇さえ有れば眺めに行った北海を…。

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 すっかりズィルトのファンになり、ハンブルクに帰るのがイヤでした。