笑う伴奏生活

ハンブルクから愉快な共演者達を御紹介します。

ジョンゲン・レーガーでヒィヒィ言う

 1月18日がドアマン先生(フルート)の、翌19日が無愛想先生(クラリネット)のクラスの学内演奏会だった。疲れた…。なぜなら両日1曲ずつ長くて難しくてあまり(私の)準備が出来ていないソナタが有ったから。今更、「日本で2週間ホテル待機だったから練習出来なくってぇ!」なーんていう言い訳も出来ないし…。

 18日は地下の狭いスタヂオで無観客での開催で、卒業生の髪の芸術家(ウクライナ)が録画をしてくれたのだがスタヂオ内の明るさがイマイチ。先生も一緒にその辺に有ったスタンドを持って演奏者を照らしたりしたがあまり効果がなかったので今回は少々ミステリアスな仕上がりになるだろう。
 そのジョンゲンのフルート・ソナタを吹く小学生(韓国)はなんと当日が誕生日。本人の希望でいちばん初めに演奏した(そして友達とお祝いするらしい)。ジョンゲンを(私が1人で)ヒイヒイ言いながら弾いた後、タンゴ幻想曲の前にタンゴ版ハッピーバースデー一同斉唱して小学生を驚かせることに成功!ドアマン先生のフライング付きだった。
 無観客ながら演奏を終えてホッとした学生達の期待には思った通り応えず、「ビールは次回飲もうねっ!」と立ち去ったドアマン先生。約束ですよ…。次回は飲みましょうね…。


 翌日がレーガーのクラリネットソナタです。こちらは人前で弾くのは初めて。フィンランド出身でエストニアの学校からの交換留学生Sはミヨーのソナチネを吹くと思って日本にも楽譜を持って行って練習したのに1人ずつの持ち時間が長くなってレーガーに変えた。ハッまずい…レーガーの方が難しい…数ヶ月前に譜読みはしたものの焦って練習しなきゃ…という経緯があったのです。
 Sはフィンランド人らしく控えめな人で声も小さい上にマスクをしているものだから何を話しているのか良く聞こえない。しかも彼女は無愛想先生の強面に少々怖れを感じているよう。


無「君は何を吹くんだ?」
S「(小声で)レーガーです…。」
無「何だって?」
S「(更に小声で)レーガーです…。」


ということもしばしば。良く聞いてみると無愛想先生は、「君はこの1ヶ月で急成長したね。」と言っていらっしゃるのだが相変わらずの仏頂面なのでSは褒められているという認識がないらしい。
 当日は私にとっても久々の公開の学内演奏会で、入場時の拍手のもらい方を殆ど忘れていました…。最初に演奏した台湾のMは新入生で今回が初めての出演。緊張する緊張すると騒いでいましたが思い切り良く歌って吹きました。
 続くSは控えめな性格とは打って変わって演奏は積極的で前向き。お陰で私は目眩く転調・跳躍・臨時記号の嵐を逃すまいと目ン玉をカッ開いて楽譜に至近距離でかじりつきました。演奏時間約20分のなんと長く感じられたことか…最後のコラールに辿り着いた時はドーデーの「風車小屋便り」で明け方まで狼に抵抗したスガンさんのやぎの気持ちが分かったような気がしました。
 ここで集中力を使い果たした私は続くウェーバーの協奏曲(今日の曲の中で1番簡単)の前奏と間奏でメロメロのヘタクソになり久々のお客様に恥を晒したのに、何故か生きて行くのはイヤになりませんでした。