笑う伴奏生活

ハンブルクから愉快な共演者達を御紹介します。

カオス娘来る。

 昨夏にフライブルクで一瞬会ったケルンで学ぶオーボイストから電話。ハンブルクで或る音楽院の入学試験が有るのでハースの組曲を一緒に弾いて〜ということだった。
 試験は5月4日。ジャムおじさん先生追悼演奏会の翌々日だ。3日に会場リハーサルが出来るのでその後時間が有ったら引き続き合わせて〜だそうで、3日の朝にケルンからハンブルクにやって来る計画らしい。
 数日後に新たなお願い(こうやって後からやること増やすの嫌いなんだよね)。ソロ曲の時に特定の箇所でライトを点けて消して〜と。御礼はいくら払ったら良いかしら?と訊くからライトの特別料金込みで71ユーロと答えると、
「ハハハ!とても有難い金額です!」
と返事が来た。ぢゃあ3日に会場練習で、ということに。
 そのライトを点けたり消したりする箇所の分かる動画を送るヮと言ってからしばらく経っても来ない…。やっと試験の2・3日前に、
「ごめんなさい。忘れてたの。」
というメッセージ付きで送られて来た動画にはSの演奏の傍で暗がりに踊るダンサー。一体何の音楽院なんだ…。


 ジャムおじさん先生追悼演奏会のリハーサル中に何度も不在着信。続いてメッセージが…イヤ〜な予感。


 予感的中。


「試験明後日ぢゃなくて明日だったッッッ!あなた明日は時間有る?」


…………。


 明後日休む予定だった声楽のレッスンを明日休めば良いから時間は有るけど難しい曲だから明日の午後練習しようと思っていたのに…。幸い同じくケルン在住のダンサーも1日早く都合がつき試験は受けられそう。明日は1時間余計に早く起きて学校で慌ててダンサー共々練習して直接試験会場に向かうことに。それにしてもなんというカオス女…。


 翌朝9時前に学校に行くと夜行列車で到着したばかりのSが学生ホールの隅のテーブルに自分の持ち物を広げまくっていた。それをまとめるのにまた時間がかかって練習室に入ったらそれらの品々をまたぜーんぶ広げるんだろうな…カオスの一端を見た気がした。
 間もなく韓国人ダンサーも到着。ライトのタイミングも含めてひととおり打ち合わせた。ダンサーの柔軟性と想像力が素晴らしく、振り付けも音楽に相応しいものだった。でも…


「ところで一体何の入試なの?」


と私が湧いて来た素朴な疑問を口にすると、


「私もそれを訊きたかったのよ〜!」


とダンサーも共感してくれた。どうやら演奏と共に新しいものを創造することを求めるのが目的らしい。でも結局よく分からない。


 いざ本番は点灯・消灯の位置も間違えなかったし、ダンサーを見ながら弾いたらいつもより情感豊かに弾けたかも…。私はハンブルク在住だからともかくケルンから大慌てでやって来た2人は無事終わってホッとしたことでしょう。


 終わって直ぐSはお礼を払うわ!と言って、まるで無造作に丸められた5ユーロ札や10ユーロ札を、
「ちょっと待って!ちょうど有ると思うから!」
と言いながら次々と取り出して声を出して数えながら、
「70!有った!ホントにどうもありがとう!」
とグチャグチャなまま私にくれた。内訳は大体20ユーロ1枚、10ユーロ3枚、5ユーロ4枚とかそんな感じ。ライト分の1ユーロが入ってないよとか思いながらそれらの紙幣を1枚ずつ伸ばして並べて財布に入れた私を見て、「細かいヤツ…。」と思ったかどうかは定かではない。


 ところで結果はどうだったんだろうか…。