笑う伴奏生活

ハンブルクから愉快な共演者達を御紹介します。

ラインスベルクは元気です

 前日まで迷った。19日にワルシャワにリシャール ・アムラン氏がソロを弾くオーケストラの演奏会を聴きに行くかどうか。
 譜読みしなきゃいけない曲がいっぱい有りワルシャワまでは電車で随分時間がかかる。ということはワルシャワからハンブルクまでも同じように時間がかかる(当たり前ぢゃ)。それに今回は出番1曲だけ。しかも純ピアノ協奏曲じゃなくてシュトラウスのブルレスク。良く知らない曲だがちょっと聴いてみてそんなに凄く面白くなければ今回は見送ろう。来週ブリュッセルでリサイタル聴きに行くし…。


 ちょっと聴いてみたらかなり面白かった…。


 やっぱり聴きに行こうかな…とチケット予約に挑戦したら何回やっても最終段階で失敗する。銀行のアプリを登録する時にパスワードを3回間違えたせいかも知れない(バカ)。PayPalも使えずポーランドPayPal的なものしか使えない。
 これは行くの辞めなさいってことかもと勝手に納得。でもこの週末は学生のイトサン攻撃を退けまくったし前日に寄る予定だったベルリンで女神(フルート・ルーマニア)にも会いたい。ポーランドは諦めるけどベルリン経由でどこかに遊びに行こうかな…。


 ラインスベルクに行こう(啓示)。


 ラインスベルクといえばサンタ先生が毎年学生を引き連れて1週間の合宿を行っていた湖畔の古城。1年で1番幸せな1週間の舞台だったが、先生が専科の教授を退かれて5年。あの合宿が無くなったことは9年前の我らが夜の学生食堂だったマッチポイントの閉店同様私の生活に大きな穴を開けたままなのだ。
 あれから間もなくコロナウィルスの流行。レッスンが終わると猛ダッシュで駆けつけたビアガーデンは土地の権利を巡って存続の危機に立たされていたし、つい最近サンタ先生から100年の歴史を持つラインスベルク陶器の会社が閉窯すると聞いて大ショック!!!を受けたばかり。毎年1度みんなでお邪魔した中華レストランはFBを通じて存続を確認していたが親切なおじさんのアジア軽食店は?気になることがいっぱい有る。
 知る人ぞ知る名所ラインスベルク。週末だったこともあって或る予約サイトではどのホテルも満室…。隣町リンドウのホテルを付属のモルドヴァレストランに惹かれて予約した。
 ベルリンでは無事に女神と彼氏と楽しく飲んだ。日本びいきの女神は和風の服を着て相変わらず楽しい。来年の夏には2人で是非日本へ!と計画しているそうです。
 翌日いつも経由したノイルッピンでバスに乗り換え。ここの乗り換え時間はいつも短くおまけに毎度のことながら電車が数分遅れてバスに飛び乗った。ラインスベルクが近づくにつれてドキドキしてきた。コロナのせいで街が活気を失っていたらどうしよう…。
 懐かしの鉄道駅を過ぎてテンションが上がるも街に近づくと連なる店が軒並み閉じられた通りを目の当たりにして愕然とした。あの軽食屋さんもダメだったか…。
 でもそれは得意の早とちりだった。城の前で下車して直ぐに気になっていたエリアに引き返すとあのアジア軽食店は健在だった。生産は終了したのかも知れないが陶器の販売店も開いていてお馴染みの深い青の食器類が棚を埋め尽くしていた。
 大分テンション回復して最大の山場、『ビアガーデン』に向かう。お城の直ぐ側だ。


 やってた…。


 まるで合格発表で自分の名前を見つけた時のような安堵感。早速大好きだった豚肉のステーキをもらった。
「お久しぶりですね。」
いつもお世話になっていた店員のおばさんが覚えていて下さった。


 じ〜ん…。


 カウンターに立っただけで「イェーファーの大ですね?」
と言い当てていたもう1人のおばさんは姿が見えなかった。お元気だと良いですが…。
 街を歩いていたら今夜若手歌手による歌曲の夕べが毎年演奏していた劇場で有ることが判明。


 どうしても聴きた〜い!


 その為にはラインスベルクに泊まらねば。演奏会の後でリンドウに行くにはタクシーを頼むしかない。ダメ元でトゥーリストインフォメーションに行って宿泊の可能性について尋ねると鼻に3つもピアスをした髪の薄いおにーちゃんが次々にホテルに電話してくれた。やっぱり無理かな…と思っていたら数年前に猫娘との演奏会の際に泊まった街のド真ン中のホテルが1室空いていたッ!おにーちゃんに礼を言い喜び勇んでチェックイン。モルドヴァ料理は惜しいがリンドウのホテルをこれまた喜び勇んでキャンセル。キャンセル無料の予約にしておいて良かったッ!
 今夜のチケットを買いに(完売ぢゃありませんように) いつも泊まっていたアカデミーの建物に入る。事務室に座っていたのは猫娘演奏会の時に何度も何度も契約書を書き間違えた女性。髪が短くなっていたがチケットを印刷してくれた時も携帯を何処に置いたかしら〜こっちぢゃなくてこっちのボタンを押すんだったわ〜と相変わらずのカオスぶりが何故か嬉しかった。渋いイケメンだが甲高い声の料理長フンガーさん(ドイツ語で空腹を意味する)もお元気でいますように!
 演奏会前にもう1度街をフラフラするとお馴染みの中華レストランは、『今日から2週間お休みです』だそうで(涙)。ぢゃあ今日の夕食はアジア軽食店で!と例のお店へ。てんてこ舞いの奥様に注文を伝えると隣から懐かしのご主人が、
ハンブルクにお住まいですね?」
と。


 じ〜ん覚えていてくれてた〜!


 さていよいよ演奏会。慣れ親しんだ会場のド真ン中の響きの良さそうな席に座って既に相当なハイテンションで歌手の登場を待った。曲目はシューマンの『詩人の恋』を中心としたドイツ歌曲によるプログラム。


 凄い良かったッ!!!


 歌手はアンゲロ・ポラックさん。ほんの数年前に音楽大学を卒業したばかりなので私よりはずっとずーっと若いのは確か。1つ1つの言葉、1つ1つのフレーズが舞台から我々聴衆の1人1人に飛び出して来るような説得力、親近感。演奏会の終わりには彼の歌を聴いた全ての人が彼のファンになったに違いない。ピアニストのダニエル・ハイデさんは百戦錬磨のコントロール力だった。勿論全てに於いて共感した訳ではないけれど。
 本当に偶然にこんなに素晴らしい演奏会を聴けて幸せ〜!勿論リシャール ・アムラン氏は聴きたかったけれどその分来週楽しんでやる。


 かくして5年ぶりのラインスベルクを存分に楽しんだのであった(陶器店で塩・胡椒入れと鍋つかみも買っちゃった)。そしてまた直ぐ行きたくなっているのであります。