笑う伴奏生活

ハンブルクから愉快な共演者達を御紹介します。

サロメを観て来たッッッ!!!

 クラリネットの無愛想先生はハンブルク州立歌劇場のクラリネット奏者。学生達にもどんどんオペラを観に行けと勧めている。先日のレッスンでもドン・カルロは観たのか、素晴らしいから是非観に行け、サロメは今週の日曜が最後だぞ、と言ってからレッスンを始めた。

 なぬ?もう最後?行かなきゃと思い幸い時間は空いていたので早速歌劇場のサイトでチケットの状況を調べたら残念ながら、
「現在はチケットが有りませ〜ん!暫く経ってから再度挑戦なされませ。」
とのことで殆ど諦めた。
 次の日具合先生レッスンでソプラノのJ(ドイツ)が言うには、
「あたしも行けないの。サロメ役のグリゴリアンさんは素晴らしいと評判だから聴きたかったのに!」
だそう。
 万が一と思って昼過ぎにもう1度オンラインチケットセンターを覗いてみたら数席有ったッ!喜び勇んで1階右側の席を取り早く夜にならないかな〜とウズウズしながら練習したのでひとっつも身になっていないであろう。
 という訳で『サロメ』を観に行った。グリゴリアンさんは本ッッッ当に素晴らしかったッッッ!!!ラストの長大なモノローグは最後の1音まで移ろい行く艶やかな色合いで、全てのフレーズに様々な思いが込められていた。
 ヘロデ王・ヨカナーン・ナラボートの男性陣も良かったッ!ヘロディアスは以前に大口を開けて必死で頑張っているのにオーケストラの陰になってひとっつも聞こえない人がいたが今回の歌手は良かったッ!
 舞台は最初から最後までヘロデ王の祝宴会場。サロメの独白は本来銀の盆に載せられたヨカナーンの首と対峙して歌われるが今回は全員が祝宴会場から逃げ出し、暗い照明の中1人残されたヨカナーンに向かってサロメは歌い続けいつしかヨカナーンは静かに姿を消すという演出だった。生首のリアリティに変わって別の静けさが表現されていてこれはこれで良いと思った。
 有名な『7つのヴェールの踊り』では本来1枚ずつヴェールを脱ぎながら踊り狂い、遂には最後の1枚をも脱ぎ捨てるのだがここではサロメは殆ど踊らず衣装も明るい緑色の宇宙服のようなドレスに着替えるだけ。無愛想先生も相変わらず無表情で、「あれは残念であった。」と言ったように期待した人も多かったことだろうが、だからこそ最後の1音まで彼女の圧倒的な歌唱を堪能することができたのかも知れない。
 開演数時間前にチケットが手に入った幸運をガリガリ噛み締めながら家に帰ったのでありました。