笑う伴奏生活

ハンブルクから愉快な共演者達を御紹介します。

徒歩越境

夏の大冒険。
東欧酒旅行をしました。チェコではピルスナー発祥の地プルゼニュで勿論ピルスナーを、バドワイザー発祥の地チェスケー・ブディエヨヴィツェで勿論バドワイザーを。ハンガリーではソンバトヘイの懐かしのホテルのレストランで入り切らない程食べて、ペーチでは遂にデザートを残しました。ハンガリーはビールもワインも美味しくて更に名物の蒸留酒パーリンカも頂きました。
翌日クロアチアのオシイェクにてフルートのTさんと感動の合流をして郷土料理魚のグラーシュを食いまくる予定でした。ペーチからオシイェクまでは電車もバスも毎日通っていて二時間程度で到着と複数のガイドブックやウェブサイトに情報が掲載されていました。
とっところが前々日になってサラエヴォ方面からオシイェクへ北上予定のTさんから、「電車は一年程前に廃止されたッ!ブダペスト方面からも無いでせう。」との衝撃のお知らせが!ペーチのバスターミナルで恐る恐る明日オシイェク行きのバスが有るか尋ねてみると窓口の無愛想な婆様が「ノーブス。ノーブス。」と言いました。別の窓口の親切お爺様によると週に二便に減便されたそうです。
ミニパニックで他の方法を探します。魚のグラーシュを諦めてなるものですかッ!モハーチの方がオシイェクに近いのですが、ハルカーニからの方が歩行距離が短いのではないかという情報を発見し、国境を徒歩で通過出来るという確証もないまま思い切ってハルカーニに向かいます。
ハルカーニは小さな温泉地で、出来れば二時間位ふら~と散歩したいところでしたが、路線バスの時刻表を見ると国境の町ドラヴァサボルチ行きのバスが間もなく出ます。散歩はまたの機会に…もう無い可能性高いけど…。
ドラヴァサボルチは正に辺境!珍しいアジア人におじさん達が挨拶をしてくれます。スーツケースを転がす雑音に全ての庭の犬達が走って来て吠えたてます。快晴です。暑いです。
国境が見えて来ました。でもそこに向かう歩道が有りません。歩行者はどうするのー何とかなるよねーと思いながらショボ~い道を歩くとドラヴァ川に出ました。対岸はクロアチア!未だ訪れた事の無いクロアチア
でも歩行者様の橋なんて架かっていません。渡し船の料金所には、「今日は船は出ません(マジャール語分からないけどそうに決まってるッ!)」と書いて有ります。
もういや~!と思っていたらパトロール中らしき大型パトカーが救援隊宜しくやってきました。同乗警官数総勢六名。運転席のおにーちゃんは何故かとてもニコニコしています。私が愉快に見えたのでありましょう。
「どうしました?何処に行きたいんですか?」と苦手な英会話の時間です。しっしかし数名の方がドイツ語の名手で助かったッ!国境は車道を歩いて越えて下さいという事でした。
パスポートコントロールのこれまた六名の皆さんには大歓迎されました。と言うよりも不思議がられました。そうでしょうともそうでしょうとも!ハンガリークロアチア国境を一人で歩いて越える日本人。「あの~何処にお住まいですか~?今日は何処から来られましたか~?クロアチアのどちらへ行かれますか~?そこで何をされますか~?」といっぱい質問されました。
パスポートを見たおにーさんが、「何と!貴方先生ですか!音楽大学のコレペティと書いてある!」と言いましてございます。私がどちらかと言うと学生に見えるという事か、先生らしからぬ行いだという事か…。
パスポートをおにーさんが調べている間他の皆さんは暇なのか思いついた様にスーツケースの中をチェックして、チェコから持って来たビールを見て笑い出しました。
無事に出国スタンプを押してもらいました。スタンプ収集家では有りませんが、EU加盟国増加に伴いスタンプを押してもらう事が減ったので無意味に嬉しかったです。「クロアチアの最寄りの町までは4km、頑張ってね!」と送り出して下さいました。
75%は安心しました。橋の向こうで入国拒否されなければつっついに初クロアチア
ドラヴァ川に架かる国境の橋を独り占めです。中程には、「ここまでハンガリー、ここからクロアチア。」の表示が。それを見ながらこの橋を歩いて越えた日本人はいただろうかなどと余計な事を漠然と考えました。
クロアチア側の国境審査には二人だけ。ハンガリー側では六人全員で私の出国手続きをしたのに対しこちらでは大人しいおじさんに私を任せてもう一人は部屋の片隅でぼーっとしています。おじさんはハンガリー側の皆さん程の好奇心は見せませんでしたが、「次の町からオシイェク行きのバスが出ています。あと4kmです。」と親切に教えて下さいました。
私は旅に際して荷物を余りいっぱい持ち歩かない(準備が面倒くさい。考えが軽薄。)のですが今回は本当に良かったッ!あと少し歩けばクロアチア最初の町、ドニ・ミホリャッツです。最後の1kmはビール…ビール…と呪文を唱え乍ら歩いていたかも知れません。
見えて来ました!緑いっぱいの公園やちょっとした古城の廃墟の様な建造物。ドラヴァサボルチよりも少し人口が多そうな町です。
ここでまた個人的イベント、「さあ、クーナをおろしましょう!」大作戦です。クロアチアの通貨クーナをおろす際の失敗談をTさんから伺っていたので事前に銀行で手続きをして来ましたが、ちゃんと引き出せるでしょうか…。
ATMの前で何故か国境審査の時と同じ位緊張して想わず、「さあ、クーナをおろしましょう!」と独り言を言った様な気もしますがめでたくクーナが出てまいりました。ばんざ~い!
何とオシイェク行きのバスは三時間半後出発。晩メシに間に合うだろうか…魚のグラーシュが…。しっしかし今ここで憂いても始まらぬ!ビールを飲む時間はたーっぷり有るのぢゃ!というわけでクーナを有効利用して角の飲み屋とバスターミナルでゆーっくりクロアチアビールを飲みました。
オシイェク着と同時にレストランへ全速力です。十時前にとうとう辿り着いたレストランに入るとTさんがラストオーダーを迫る店員相手に粘ってくれていました。感動合流成功です。
魚のグラーシュにも間に合いました。うま~~い!なんだか凄い一日だった様な気もしますが大満足の一日でした。オシイェク、是非また行きたいです。