笑う伴奏生活

ハンブルクから愉快な共演者達を御紹介します。

西部の娘

 金曜日、ホセ・クーラを聴けたッ!
 「ポスト三大テノール」と謳われ二十世紀末に大活躍したアルゼンチン出身の歌手。抜群の歌唱も去る事乍ら多彩な能力とルックスの良さでも注目を浴びた。私は「カヴァレリア・ルスティカーナ」や、「アイーダ」の映像を鑑賞してそのパフォーマンスに感服し、素晴らしい音楽家だと認識していた。
 以前程名前を目にしないと思っていたら、一説によると二千年代に入ってから発声を崩し以前の様に歌えなくなってしまい、必死で打開策を模索中といった内容の記事を目にした。
 ショック!飛ぶ鳥をも落とす勢いだった彼が・・・

 何気なくハンブルク州立劇場のカレンダーを見て久し振りにオペラを観たいなどと思っていたら、プッチーニの不人気オペラ「西部の娘」で彼が出演する!
 三大テノールの一人、ホセ・カレーラスが大病後に復帰した時に多くの批評家が、「あまりの声量の衰えに愕然とした。」と評した。その演奏会の映像を観た時私は彼の心から溢れ出る誠実な音楽に感激した。
 クーラの声が全盛期に遥かに及ばないものだったとしても彼の舞台を観たい、そう思ってチケットを買った。

 久々のオペラに浮足立って開演を待った。「西部の娘」は四管の大規模な管弦楽配置で歌手の声量が相対的に小さく感じられるのは当然のことだろうか。音楽そのものは響きが印象的で合唱部分も美しく、「トスカ」「ラ・ボエーム」「蝶々夫人」といった作品に比べて知名度が低いのが不思議な程に素晴らしく感じられた。

 クーラの声量が以前より落ちたかどうかは知らないし、落ちていたからと言って何の問題が有るだろう。登場から幕切れに至るまで、彼が心をそのまま声に乗せたような歌唱に引き付けられた。特に最終幕で絞首刑の直前に愛するミニーへの思いを綴る独白では、悲劇的な場面にも関わらず彼の健在振りに何度笑みが込み上げてきたか分からない(実際には処刑直前にミニーが現れてハッピーエンド)。
 西部の居酒屋の女主人ミニーを演じたソプラノのアマリッリ・ニッツァの劇的な表現力にも心を奪われた。第二幕終焉で保安官とのポーカー勝負で(いかさまをして)勝利し、「彼は私のもの!」と絶叫する場面は忘れ難い。

 カーテンコールで自分が感激した歌手の登場で場内が大喝采に包まれると何故か更に感動。オペラって良いなぁ・・・。